臨床的見地からの解説が容易であることから、アトピー性皮膚炎に対する漢方薬の有効性に関する主な試験結果を、漢方方剤別に要約する。
1. Zemaphyte (PSE101)
防風、芍薬、甘草、荊芥・ハマビシ・仙人草など10種類の構成生薬からなる同一の漢方製剤の臨床試験の結果報告である。
(1) ZemaphyteとプラセボのRCT
(2) 追跡試験(非RCT)
(3)煎剤とエキス剤のRCT(Open trial)
[解説]
Zemaphyteの臨床試験は英国から5例、中国から1例の報告がみられた。小児5)あるいは成人6)に対する有効性の評価、それらの症例の1年間の追跡試験8,9)、中国人患者に対する有効性の評価7)および実薬を煎薬投与群とエキス剤投与群に分けて行った試験である7)。47名の小児アトピー性皮膚炎患児に対し二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験にて、同漢方生薬あるいはプラセボを8週間連日内服投与し、4週間の休薬後、漢方生薬あるいはプラセボをクロスオーバーさせて8週間の内服を行っている5)。評価は皮疹の状態・面積により症状の重症度をスコア化し、その変化によりなされている。試験を終了した37名において同漢方生薬がプラセボ群に比し有意に臨床症状を改善させたこと、およびプラセボ投与時の悪化傾向が示された。さらに同治験を終了した小児に対し1年間の継続加療を行った追跡調査8)では、1年後までの継続加療を受けた患児23名全員で改善が認められ、7名は完全寛解し、残り16名中4名のみが連日の内服を必要とする程度に維持されたと報告されている。しかし脱落例が37例のentry中14例 (37.8%) と多く、試験のエビデンスの質としては劣ると思われた。成人型アトピー性皮膚炎患者40名においても同様のスケジュールにて同漢方生薬の治験が行われている6)。31名の治験終了患者の漢方生薬による皮疹の改善度はプラセボ投与時に比して有意に高かった。小児と同様に1年間の継続加療を行った追跡調査が行われ、17名のうち12名が90%以上の皮疹改善率が維持され、継続加療を行わなかった群に比して統計学的に有意な差異をもって有効性が示されている8)。しかし、中国で行われた40名のアトピー性皮膚炎患者に対する同剤の有効性の二重盲検ランダム化クロスオーバー比較試験10)では、皮疹の改善度において同漢方生薬内服群とプラセボ群の間に有意差は認められていない。試験プロトコールは同一であるが、皮疹の評価法が異なること、人種間での効果の差異あるいは薬剤の標準性などに問題が残されていると思われた。
2.小柴胡湯
(1) 小柴胡湯とステロイド外用剤併用群とステロイド外用剤単独群のRCT
(2) 症例集積研究(アトピー性皮膚炎を含む)
[解説]
アトピー性皮膚炎患者65例を無作為に2群に分けたランダム化同時対照比較試験が行われている11)。A群は小柴胡湯内服と吉草酸ベタメタゾン外用(41例)、B群は吉草酸ベタメタゾン外用(24例)として8週までの比較試験である。有用度の評価において、やや有用以上はA群で95.1%、B群で88.3%
であった。また小柴胡湯内服はステロイド外用剤の離脱、減量効果を示すことが報告されている(A 群でステロイド外用剤離脱可能2例を含めて、ステロイド外用剤の減量しえた症例は83.3%であった)。アトピー性皮膚炎を含む湿疹・皮膚炎群30例に使用し、内服ステロイドの減量効果の報告12)がなされている。アトピー性皮膚炎は4例含まれているのみであったが、文献11と併せて、外用・内服ステロイドの減量効果を裏付けるデータとして貴重であると考え採用した。小柴胡湯に含まれるサイコサポニンdが一般的抗炎症作用とともに、直接肝臓に作用してglycogenの生成増加、蛋白の合成増加をうながし、ステロイドと極めて類似の作用を有することが報告されている。後述するように、このような基礎的研究データに裏付けられた臨床結果は信頼性の度合いが高まるものと思われる。また、アトピー性皮膚炎を含む湿疹・皮膚炎群56例に使用し、有効率は56%であり、特にアトピー性皮膚炎16例においては著効2例、有効7例、やや有効4例で81%に効果があったと報告13)されている。
3.十味敗毒湯(症例集積研究)
[解説]
慢性湿疹、アトピー性皮膚炎35例につき、対照薬をフマル酸クレマスチンとして十味敗毒湯の8週間連続投与による同時対照比較試験の報告14)である。アトピー性皮膚炎患者に対し、8週後の痒みの程度および皮膚所見において、十味敗毒湯はフマル酸クレマスチンと同等の効果を示した。
4.柴胡清肝湯(症例集積研究)
[解説]
アトピー性皮膚炎患者34例に使用し、ステロイド外用剤を併用した場合は84%、白色ワセリンを外用した場合は64%に有効であったと報告15)されている。さらに症例数を92例に増やしての同一施設からの追加報告16)がある。外用は原則として白色ワセリンとし(34例)、すでに外用ステロイド剤を使用していた症例では、引き続き同一の外用剤を併用した(58例)。全体では約半数に著効あるいは有効の効果がみられ、外用ステロイド剤を使用した群(46%)と白色ワセリンを使用した群(53%)に著明な差異は認められなかった。重症度別では、有効以上の成績を示した症例は重症例で37%、軽症例で75%であった。柴胡清肝湯の小児アトピー性皮膚炎に対する臨床効果を調べた報告17)では、15歳以下のアトピー性皮膚炎患児に対し、12週間の投与を行い、掻破の程度、皮膚症状、臨床検査値などを観察し、治療効果を判定している。投与開始とともに痒みの軽い症例が増え、投与2週以降になると痒みの消失した症例もみられた。発症部位別皮膚症状も2週以降から、投与開始前に比べ有意な改善傾向が認められ、投与期間が長くなるほど効果は明確であった。臨床効果は、患者の印象「やや良くなった」を含めて80%、医師の評価は「やや改善」を含めて68%の改善度であった。臨床効果の最終判定が、患者の印象や医師の評価という主観的視点から行われている点は、明確なエビデンスを示すにはふさわしくないと思われる。
5.消風散(症例集積研究)
[解説]
皮膚科専門医の診療する9施設でのアトピー性皮膚炎患者35例(4例脱落)に対する4週間の臨床試験の結果、68.8%の有用度が報告18)されている。同時に行われた脂漏性湿疹30例、貨幣状湿疹15例、慢性湿疹31例の有用度は、それぞれ、81.5%、78.6%、66.7%であった。青年期以後のアトピー性皮膚炎31例(4例脱落)に消風散を8週以上内服させ、その臨床効果を経時的に観察した結果が報告19)されている。その結果、4週後の改善率(有効率)は65.5%に達したが、その後改善率の増加は認められなかった。以上より、青年期以後の難治性症例でも消風散の効果は期待し得ること、またその効果の有無は服用4週後という早期に判定し得ることが示唆されている。
6. 柴朴湯(症例集積研究)
[解説]
アトピー性皮膚炎患者26例に8週間の投与が行われ、69.2%の有用性が認められている。有効例の効果発現時期は比較的早く、2週以内が75.0%と最も多かった20)。また、アトピー性皮膚炎患者51例に対し同じく8週間継続投与し。その有用性を検討したオープン・スタディーの報告21)があり、最終全般改善度は、中等度改善以上で51.1%、軽度改善以上で83.0%であった。有用度は、かなり有用以上で51.1%、やや有用以上で72.3%であった。罹病期間の長い症例 (11-20年)でも、短い症例 (10年以下) と比べて同等の有効性を示した。2つの報告に共通するのは、効果発現までの期間が短く、柴朴湯はアトピー性皮膚炎に対して比較的速やかに効果を示すことが示唆される。
7.補中益気湯(症例集積研究)
[解説]
アトピー性皮膚炎患者18例に対して3ヶ月以上の長期投与を行った試験結果の報告22)がみられる。かなり有用以上の有用率は55%、やや有用以上では89%に達した。
8.梔子柏皮湯(症例集積研究)
[解説]
成人アトピー性皮膚炎患者25例に8週-16週の投与を行い、皮疹の重症度 (0-120) および痒みの程度 (0-40)でスコア化して評価し、併せて投与前後の血中および組織中の痒みに関与する諸因子の変動を調べた。皮疹スコアは投与前82.3±24.5、投与後50.6±11.9と有意に
(p< 0.01) 減少し、痒みスコアも投与前32.1±6.5、投与後14.2±5.3と有意に (p< 0.001)減少した 23)。同時にsecondary endpoint として、投与前後の比較により、血中好酸球数、ECP、NGF、SP、sELAM-1、IL-4、IL-10などの有意な減少、および組織中好酸球数およびマスト細胞数の有意な減少が認められた。
9. その他
柴胡清肝湯・治頭瘡一方・消風散・加味逍遙散:アトピー性皮膚炎の成人例にこれら4剤のいずれかを6ヶ月以上長期服用させ、服用前(1年前の同時期)と比較した結果、24例中13例
(54.2%) において皮疹の改善がみられたとの報告24)がある。 |