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アトピー性皮膚炎は一般に乳幼児期に発症し、増悪と寛解を繰り返しながら慢性に経過する難治性の皮膚疾患である。最近では思春期になっても軽快せずに成人期に移行する症例や、成人期発症のアトピー性皮膚炎患者数の増加も指摘されている。その病態はアレルギー性機序および非アレルギー性機序両者にわたり多因子性であり、本症で最も患者のQOLを低下させる痒みのメカニズムも複雑であり、未だ一元的に捉えることは困難である。改めて述べるまでもなく、アトピー性皮膚炎の治療は、原因・悪化因子の検索とその除去、ステロイド外用薬・免疫抑制外用薬などの外用療法による湿疹病変の鎮静化、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、睡眠導入剤あるいは精神安定剤などの内服療法による止痒対策および皮膚の清潔と保湿を保つスキンケアが主体である。これらの治療法が本症に有効であることは実地臨床上疑いのないところであるが、本症患者の中にはステロイド忌避を訴える患者、西洋薬の副作用を必要以上に恐れ、多くは自己判断でいわゆる「脱ステロイド」を行いその反跳現象に苦しむ患者、有効性・安全性が十分に検証されていない民間療法を行っている患者などが決して少なくないことも、また事実である。
一方、本症に対する治療の一つとして、種々の漢方方剤の臨床的有用性が認められている1-4)。アトピー性皮膚炎に対する漢方療法では、生体の生理機能の失調を改善あるいは復元することにより、アレルギー反応や炎症反応が生じやすい体質を改善する効果が期待されている。個々の患者において考え方に違いはあるとしても、近年東洋医学的治療に対するニーズが高まっていることは事実である。現在、西洋医学が主たる医療であるという立場に立てば、漢方療法などの東洋医学的治療は補完代替医療に位置づけられるであろう。疾病を分離・分析的に診る西洋医学と医療を補完する形での補完代替医療、特に疾病を主に個体全体の失調の側面から診る東洋医学とを統合させた医療が求められていると思われる。漢方治療は随証治療をはじめ個人の臨床経験・能力を医療行為の基礎とする側面を有する、との特殊性がある。漢方医学に対する患者側からの需要が高まるにつれ、臨床効果に対するエビデンスの科学的・客観的評価、すなわちEBMによる評価が急務とされている。漢方治療では漢方薬の薬理学的側面に加え、個々の患者における個体の協調により治療効果が期待されることから、両者の協調関係を無視してEBMを検証することは難しい。本症患者への有用な治療法の普及を求めて、効率的な漢方療法のスタンダードを提供することおよび西洋医学を中心とした医療体系の中で有用な漢方療法の場を提供することを目的に、過去の文献検索(情報収集)とそれらの批判的吟味に基づいて、アトピー性皮膚炎に対する漢方療法のEBMによる評価に取り組むこととした。
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