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厚生労働科学研究「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」では、スキンケアは原因・悪化因子の除去、薬物療法と並んでアトピー性皮膚炎の治療の3本柱の1つとされている。その具体的な方策としては皮膚の清潔、皮膚の保湿、室内の環境整備などが必要である。しかしそこで例示されている具体的な対処法は常識に基づく経験的なものであって、厳密には臨床的比較試験により有効性を証明されたものではない。しかし皮膚の保湿、特に保湿外用薬についてはいくつかの臨床的検証がなされていることが明かとなった。実地臨床で使用されている保湿外用薬には様々な種類があるが、基剤もしくは他の保湿外用薬とのコントロールスタディー以上のエビデンスを以て臨床的効果を評価されたのは、尿素製剤、乳酸アンモニウム、グリセリン、擬似セラミド含有クリーム及びヘパリン類似物質のみであった。それらの研究では各薬剤間の効果比較が主であったが、いずれの薬剤も使用により臨床症状、または角質水分量、TEWLといった皮膚の乾燥状態を反映する数値を改善させる効果が証明されている。またレベルは低いが、ヒノキチオールについてもアトピー性皮膚炎を検討対象にして得られたエビデンスがあった。我が国においてはこのほかに亜鉛華軟膏、白色ワセリン、ビタミンE軟膏、ビタミンA軟膏、ツバキ油など様々な製剤がアトピー性皮膚炎の治療に保湿外用薬として用いられているが、いずれも厳密な意味での臨床比較研究により有効性を証明されたものではない。
しかしアトピー性皮膚炎の治療を担当する臨床医にとって、いずれの保湿外用薬も一定以上の保湿効果があることは経験的に明らかであろう。従って保湿外用薬について本当に知りたいのは、既に研究されているようなどの保湿外用薬が保湿効果が高いのかということもさることながら、それらの保湿薬をどのような場面で、どのような方法で使用したらよいのか、なかんずくステロイドとの併用によっていかに位置づけしたらよいのかという点であろう。また、臨床的には保湿外用薬の併用により、どれほどステロイド外用薬の使用量を減少させうるのかということも重要である。その点に関して興味深い回答を与えてくれるのは2002年のHanifinらの報告13)と2003年のBerth-Jonesらの報告14)であろう。彼らは中等症から重症のアトピー性皮膚炎の患者に対して、フルチカゾンを連日4週間にわたって外用し、皮膚炎の完全寛解が得られた症例を対象としてランダム化二重盲検比較試験を組み立てた。症例数は前者では372例、後者では376例であった。それらの対象症例のうち、一群は保湿外用薬のみを連日外用し、もう一方の群では保湿外用薬の連日外用に加えて週2回フルチカゾンを外用することとした。そして試験開始後皮膚炎の再燃がみられた時点をドロップアウトとし、皮膚炎の再燃する確率を数値化した。結果は保湿外用薬単独に比較してフルチカゾンを週2回外用するのみで皮膚炎が再燃する確立は有意に低下した。この試験ではステロイドの間歇外用療法の有効性を示すことに主眼がおかれていたが、保湿外用薬併用の有効性も汲み取ることができる。つまりこの報告では導入期間の連日のステロイド外用により得られた皮膚炎の寛解が、保湿外用薬のみでも3割から4割の患者では12週間以上にもわたって維持できることが示されている。この報告では保湿外用薬さえも外用しない対照群はおかれていないが、アトピー性皮膚炎の治療において保湿外用薬の併用が有効であること、そして保湿剤を併用するとステロイド外用薬は週2回のみ間歇的に使用することで8割近くの患者が皮膚炎の寛解を維持できることを示した。この試験のスタイルを参考にして、今後保湿外用薬を含めた様々の外用療法の有効性、安全性を検討することが必要であろう。 |
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