A. RCTに基づく食事療法介入試験による治療効果(RCT表)
7件で除去食療法を中心にRCTによる検討がおこなわれていた。
除去食介入の検討で効果ありとする論文は、Athertonら(1978年)、Leverら(1998年)、Isolauriら(1995年)の3件で、いずれも乳幼児中心の症例であり、卵や牛乳誘発歴または感作の確認されたアトピー性皮膚炎児である。
Athertonらの、皮膚科外来受診中のADで、卵、牛乳による悪化病歴のある36例(16例脱落のため20例で評価)について、栄養士によるランダム化で卵、牛乳の除去食(大豆ミルクの代替)とこれらの粉末を用い非除去食(負荷に相当)の4週間毎の二重盲検クロスオーバーを行っており、皮膚科医による皮疹経過を評価している。重症度スコア(独自のもの)や生活改善度で効果は顕著である。脱落が16例(44%)と高いが、非除去食群で脱落がみられ、非除去すなわちアレルゲン食品負荷による皮疹悪化で脱落していることを述べている。少なくとも4週間の除去期間によって優位に改善したことは、食物アレルゲンが皮疹に影響を与えること、そしてその除去により治療効果がみられることを明らかにしたもので臨床的に評価される論文である。またAthertonは、その後1980年に、前述の研究で食物RAST陽性例が除去効果のみられた群に多く、プリックテストでは関連がなかったことを報告している。Leverらも乳幼児で卵RAST陽性、誘発陽性例で卵除去食(栄養士による)によるランダム化試験で、皮疹分布率および、重症度スコアが非介入群に比べ優位に減少したことを報告しており、これらの2つの論文はグレード1bとした。
Isolauriらは、ミルクに対する誘発陽性のアトピー性皮膚炎児における乳清分解乳とアミノ酸調整乳の効果を前方視的比較研究して検討しているが、ランダム化は不明のため、グレードは2aと判断した。これらの検討では、いずれも脱落率が高く、ランダマイズが不明瞭なものが多く、EBM評価が困難であるが、食物アレルギーの関与の示唆される乳幼児アトピー性皮膚炎では、食物アレルゲン除去食による臨床効果がある程度評価されると思われる。
一方、除去食療法の効果なしとする4論文、Cantら(1986年)、Mabinら(1995年)、Neildら(1986年)、Munkvadら(1984年)があり、前2件が乳幼児対象、後2件が小児から成人と成人のみのアトピー性皮膚炎である。これらは対象症例の食物アレルゲンについてはあまり検討されておらず、非選択アトピー性皮膚炎例で、いずれも皮疹の改善率などに非除去群と差がみられていない。Cantらは3ヵ月から6ヵ月の乳児湿疹で母乳栄養中の母親に対する除去食介入試験であり、差異がみられていないが、例数が17例と少なく、Mabinらと同様脱落率がおよそ50%と高い。
Neildらは1歳から23歳の各年齢で除去群と非除去群で皮疹改善率に差がなかったと報告している。ただし、論文中に、除去期間に皮疹、痒みの改善した10例のうち5例が低年齢であり、6例(60%)で卵陽性、10例全例が高IgE血症を示しており、これらは除去効果のなかった非改善群より高率であったと述べており、除去による改善例では除去食療法の続行を行っている。すなわち、成人での効果のエビデンスはないが、乳幼児で食物アレルゲンの関与するアトピー性皮膚炎では、効果がみられる可能性を指摘している。
B. 他の介入試験との比較の中での除去食治療効果(RCT表)
2件はDisodium Cromoglicate(インタール®:経口)とのクロスオーバー試験
抗アレルギー薬(インタール®:経口)とプラセボの比較試験に除去食の有無を組合わせた検討がGrahamら(1984年)、Busincoら(1986年)によって行われている。相乗効果についてはあり、なしと結果が分かれているが、除去食による皮疹改善効果はみられている。皮疹の評価スコアが報告により異なっており、同一レベルで重症度の変化が判断しにくい問題がある。
C. RCTによるミルク除去分解乳と乳酸菌によるプロバイオティックス
Majamaa H, Isolauri Eにより、ミルクアレルギーを有するアトピー性皮膚炎乳児における分解乳と乳酸菌投与による治療効果が検討されている。分解乳のみでは皮疹改善効果はみられなかったが、乳酸菌併用で有意に皮疹改善を認めている。
D. 非ランダム化比較試験、長期追跡研究
Resanoら(1998年)、Sampsonら(1989年)の2件があり、3年の追跡により食物アレルギーのあるアトピー性皮膚炎でのアレルゲン除去食の効果が報告されている。これらは非ランダム試験であり、前者は例数が74例と多く、食物感作群では関連食品除去と対症療法での3年間のフォロー後、食物過敏性のない群では20%、食物過敏ありの群では71.4%が軽快している。ただし1年後では両者にこのような差異はみられていない。Sampsonらは食物アレルギーを有するアトピー性皮膚炎17例(除去食例)と食物アレルギーのないアトピー性皮膚炎5例(非除去食例)を3-4年フォローし、皮膚の症状スコアが除去食群で1-2年(p<0.05)、および3-4年後(p<0.001)と有意に改善したと報告している。除去群では、ヒスタミン遊離、好酸球、好塩基球反応性、IgE値はいずれも低下し食物耐性化もみられている。
妊娠中の母親の除去食による児のアトピー性皮膚炎発症予防効果(7件のRCT)
1)2つの論文で一時的な発症率の低下が指摘されているが、最も質の高い論文(Miskellyら1988年)を含め、4つでは全く予防効果がみられていない。
アトピーリスク児の妊娠中からの母親の除去食による発症予防効果
2)生後の除去食指導と発症予防効果(6件のRCT)
母親の授乳中の除去食については、3つのRCT論文で効果がみられている。これらの論文で明らかな点は、母親の授乳中のアレルゲン除去食は、生後1年〜4年のアトピー湿疹や他のアレルギー疾患の頻度を下げる、いくつかのエビデンスがあった。しかし方法論的に盲検法の記載が不明瞭、大豆ミルクが代替として適当であるか問題があった。
分解乳によるアトピー発症予防については、最近でもRCT論文がみられ、高度分解乳が一般粉乳よりも湿疹の予防に効果的であるとするものが多かった(文献26〜32)。
生後の除去食と発症予防効果(授乳中、乳幼児食での除去食効果)
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