アレルギー疾患の代表的な疾患であるアトピー性皮膚炎の原因アレルゲンの同定は必ずしも容易ではないことは日常診療上、よく経験するところである。気管支喘息やアレルギー性鼻炎のように確立した負荷試験により原因アレルゲンを確定する検査法はない。
また、環境中の吸入アレルゲンに対する暴露の回避の効果はアトピー性皮膚炎については必ずしも明確ではない。近年は環境アレルゲンの定量化が可能になりかなり正確に環境アレルゲンを測れるようになった。しかしそれが、環境アレルゲンに対する大規模試験の困難さを示している。今回の調査対象の論文の中で、アトピー性皮膚炎に関して全体の総数で1000件を超えるような大規模試験を行っているのはPIAMA-studyのみである。(文献4,18)PIAMA-studyの特徴は、マットレス及び枕に防ダニカバーをつけるのみのPlacebo-Double blindの単純なdesignであるために1000人を超える患者をエントリーできたと考えられる。1年後の時点ではDer f 1, Der p 1ともにマットレスのDer p 1, Der f 1が有意に低下していたが、4年を経過した時点でもはやDer p 1量では有意差はなくなり、4年経過した時にはもはやマットレスと枕のみに防ダニカバーをつける臨床的な意義はないと筆者等は見解を示している。またPIAMA-studyでは2年後まででアトピー性皮膚炎の発生率に差はなく、4年後も同様の結果であった。
一方文献17の英国、Weight島での研究ではマットレスカバーの使用に加え、殺ダニ剤で3ヶ月ごとにカーペット、椅子などを処理し、家の中から環境アレルゲンを可及的に除去して9ヶ月目には少なくとも、寝具、居間のカーペット、椅子類のDer p 1を除去した。さらに食事制限まで組み合わせた結果アレルゲンの回避がアトピー性皮膚炎の予防に効果があるという結論に達している。環境アレルゲン除去がアトピー性皮膚炎に対して効果があるかどうかは未だ結論が出ていないが、この2つの研究以外も考え合わせるとアトピー性皮膚炎を改善するためには、生活環境の中からTotalにダニアレルゲンを除去することが重要であると推察される。このためには計画はきめ細かな生活指導を中心とした臨床研究にならざるを得ない。そのような臨床研究に関しては質の良い大規模なMulti-center testは難しくなるため、環境アレルゲン除去によるアトピー性皮膚炎の影響を確認するためには小規模ではあるが良質な臨床試験の結果の積み重ねを見ていく必要があると考えられる。
アトピー性皮膚炎に対する免疫療法については1991-2003年の文献中でエビデンスのレベル1の文献が2報ありいずれも効果無しの判定であったが、2004年-2009年までの文献ではレベル1のものが2報有りいずれも有効という判定であった。投与経路については経口投与の一例が無効、皮下注射による報告の一例が無効、一例が有効、舌下投与による一例が有効という結果であった。更に投与されるアレルゲン及びその加工方法も様々であること、未だにレベル1の免疫療法によるアトピー性皮膚炎の治療論文が少ないことも併せて有効かどうか結論には至っていない。
花粉症に対する免疫療法において舌下投与で効果があることが確認されており、今後は比較的簡便な舌下投与法でアトピー性皮膚炎に対する免疫療法が試みられその有用性を論議できる報告が期待される。 |