ステロイド外用薬 | 医師の視点で考えるアトピー性皮膚炎 | アトピー性皮膚炎ってどんな病気?

ステロイド外用薬

ステロイド外用薬の特性

外用薬に含有されているステロイドホルモンは、体内で産生されるステロイドホルモンを人工的に合成して力価(効果)を強めたものです。いろいろな症状で使用しやすいように、強さ(ランク)の弱いものから強いものまで多くの製品があり、その強さは5ランクに分けられています(表2)。最近はジェネリックのステロイド外用薬が多く登場し、たくさんの商品名がありますが、中に入っている成分名を比較すると、どのランクのステロイド外用薬かを知ることができます。
日本にはたくさんのステロイド外用薬があると言われていますが、欧米ではさらに多くのステロイド外用薬が使用されています。また、日本では5gチューブが主流ですが、欧米の外用薬は50gや100gチューブが主流です(図25)。日本と比較して、欧米の方が外用薬の使用量が多いのは、チューブサイズの違いが影響していると考えられます。

表2 ステロイド外用薬のランク:成分名(おもな商品名)
ストロンゲスト(1群)
0.05% クロベタゾールプロピオン酸エステル(デルモベート®
0.05% ジフロラゾン酢酸エステル(ジフラール®、ダイアコート®
ベリーストロング(2群)
0.1% モメタゾンフランカルボン酸エステル(フルメタ®
0.05% 酪酸プロピオン酸ベタメタゾン(アンテベート®
0.05% フルオシノニド(トプシム®
0.064% ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(リンデロンDP®
0.05% ジフルプレドナート(マイザー®
0.1% アムシノニド(ビスダーム®
0.1% 吉草酸ジフルコルトロン(テクスメテン®、ネリゾナ®
0.1% 酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン(パンデル®
ストロング(3群)
0.3% デプロドンプロピオン酸エステル(エクラー®
0.1% プロピオン酸デキサメタゾン(メサデルム®
0.12% デキサメタゾン吉草酸エステル(ボアラ®、ザルックス®
0.1% ハルシノニド(アドコルチン®
0.12% ベタメタゾン吉草酸エステル(ベトネベート®、リンデロンV®
0.025% ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(プロパデルム®
0.025% フルオシノロンアセトニド(フルコート®
ミディアム(4群)
0.3% 吉草酸酢酸プレドニゾロン(リドメックス®
0.1% トリアムシノロンアセトニド(レダコート®、ケナコルトA®
0.1% アルクロメタゾンプロピオン酸エステル(アルメタ®
0.05% クロベタゾン酪酸エステル(キンダベート®
0.1% ヒドロコルチゾン酪酸エステル(ロコイド®
0.1% デキサメタゾン(グリメサゾン®、オイラゾン®
ウィーク(5群)
0.5% プレドニゾロン(プレドニゾロン®

(2009年4月現在)

図25

ステロイド外用薬の副作用

ステロイドホルモンはアレルギーの免疫反応を抑える抗炎症作用により、皮膚炎の赤みやかゆみを抑えます。一方で、ステロイドホルモンには抗炎症作用以外に、血糖値をあげたり、胃粘膜を過敏にしたり、骨粗鬆症を引き起こす作用があり、そのために非常に怖い薬という印象があります。ステロイド内服薬は消化管で吸収され全身に波及するため、こういった全身性の副作用を引き起こすことがありますが、外用薬は皮膚から吸収されるため、血液中に入る量は微量で先ほど触れたような全身性の副作用が起きることは、まずありません。
一般に、ステロイド外用薬の副作用は皮膚にあらわれます。表3はステロイド外用薬とタクロリムス軟膏の効果と副作用をまとめたものですが、ステロイド外用薬の局所性副作用として、以下のようなものがあげられます。

(1)うぶ毛が生える(図26

(2)塗ったところにニキビができやすくなる(図27

(3)同じ場所に塗り続けると血管がやや目立つことがある(図28

(4)同じ場所に塗り続けると皮膚がややうすくなることがある(図29

(5)皮膚がうすくなりすぎて皮膚線条ができることがある(図30)。

このうち(1)(4)までの副作用はステロイド外用薬の使用量が少なくなると回復しますが、(5)は回復しません。(5)の皮膚線条は同じ場所に数年間毎日塗り続けると発生しますので、皮膚線条を起こさないよう、医師の注意深い観察と指示が必要です。

表3 ステロイド軟膏やタクロリムス軟膏の長所(利点)と短所(副作用)
ステロイド軟膏 タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)
長所・利点

抗炎症作用が強い。

効果の発現が早い。

いろいろなランクがあり、症状の程度や使用部位に合わせて使い分けができる。

ローション、クリームやテープ剤といった使用しやすい剤型がある。

抗炎症作用はあるが、ステロイド軟膏のストロングランク(3群)と同じ程度の効力であり、ベリーストロングランク(2群)よりは弱い。

小児用(0.03%)と成人用(0.1%)の2種類がある。

ステロイドホルモンではないので、ステロイドホルモンにみられるホルモン性副作用はない。そのため、ステロイド軟膏で副作用が出ている部位にも塗ることができる。

短所・副作用

ステロイドホルモン作用による副作用がある。

①うぶ毛が生える

②塗ったところにニキビができやすくなる

③同じ場所に塗り続けると皮膚がややうすくなることがある

④同じ場所に塗り続けると血管がやや目立つことがある

⑤皮膚がうすくなりすぎると、皮膚線条ができることがある

など

塗り始めの数日間ヒリヒリとほてることがある。

塗ったところにニキビができやすい(顔)。

軟膏だけしかないので、頭の中には塗りにくい。

効果の発現が少し遅い。

強い日光を浴びる海水浴、スキー、遠足などに出かける朝は、タクロリムス軟膏は塗れない。

2歳未満の乳幼児には保険適応はない。

皮膚線条とは:
体が急に成長する成長期、急に体重が増えた時、妊娠した時などに上腕部、腹部、腰部、鼠蹊部、大腿部にできる皮膚の亀裂による皮膚の線条。皮膚が急速に引き延ばされることで、皮膚の真皮のコラーゲン・弾力線維に亀裂ができることによって生じる。ステロイド軟膏を同じ場所に数年間毎日塗っていると出現しやすくなる。

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《ステロイド外用薬は色素沈着を引き起こす?》

ステロイド外用薬を塗ると皮膚が黒くなるといわれていますが、それはまったくの誤解です。一般に私たちの皮膚の表皮にはメラニン色素がたくさんあり、紫外線を防いでくれる働きがあります。しかし、アトピー性皮膚炎のように皮膚の炎症が長引くと、表皮が壊れてメラニン色素が真皮に落ちてしまいます。真皮に落ちたメラニン色素は体外になかなか排泄できませんので、体内の貪食細胞が処理してくれるのを待つしかありません。皮膚炎が強ければ強いほど、かゆくて引っ掻きますので、表皮がたくさん壊れ、真皮にメラニン色素が落ちることになります。貪食細胞の能力には限りがあるため、真皮内のメラニン色素はその場所に沈着してしまいます。つまり皮膚が黒くなるのはステロイド外用薬とは無関係で、アトピー性皮膚炎の炎症が強く、たくさん引っ掻いたことを意味しています。
炎症が強いときは、炎症の赤みで黒い色素沈着がはっきりしませんが、ステロイド外用薬で炎症が軽快して赤みが治ると、一挙に黒い色素沈着が目立つため、ステロイド外用薬で黒くなったと勘違いされてしまうのです。色素沈着を予防するためには、炎症→かゆみ→掻破を起こさないように、皮膚炎をあらかじめしっかりコントロールすることが大切です。

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ステロイド外用薬の種類

ステロイド外用薬には、クリーム、ローションやテープ剤といったバリエーションがあります。髪の毛の生えている頭部にはローションが塗りやすく、また軟膏のべとべと感が嫌いな人にはクリームが好評です。ローションを顔や体に塗っても構いません。ただし、アルコール基剤のローションを顔や体に塗る場合はしみることがあります。アルコール基剤ではないローション(たとえばリドメックスローション®やアンテベートローション®など)は、ほとんどしみることはありません。テープ剤はひび割れや皮膚表面が固くなった部位にとても有効です。

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