アトピー性皮膚炎で患者さんが最も苦しめられる症状は“かゆみ”です。
特に子どもは我慢することができず、かきこわして血が出るまで引っ掻いてしまいます。自分で引っ掻くことのできない乳児期などは、母乳を飲むときにお母さんの乳房にこすりつけたり、抱っこされているときにお母さんの服にこすりつけて掻いています。
お風呂に入ったり布団に入って体があたたまると、途端にかゆくなります。これは、皮膚があたためられて、かゆみ神経がかゆみを感じやすくなるためです。また、仕事や遊びに熱中している時はあまりかゆくないのに、ほっとしている時にかゆみを感じやすいこともよくあります。夜、眠る前が一番かゆいと訴える患者さんが多いのは、布団に入って体があたたまるのに加え、まどろみ始めて緊張がゆるむため、かゆみが倍増すると考えられます。
遊びや好きなことに熱中しているときはかゆくないのに、勉強したり人前での発表などイヤなこと、いらいらすることがあると、かゆみが強くなります。受験が近づくとアトピー性皮膚炎が悪化し、合格すると急に軽くなるというのは、よくある話です。ストレスはかゆみを悪化させる大きな原因と考えられています。
アトピー性皮膚炎には、季節性があるといわれています。夏に悪化する人もいれば、冬に悪化する人もいて、かなりの個人差がみられます。
寒くなると肌の乾燥がますます強くなるため、かゆみがひどくなります。暖かくなると温度が上がり、発汗によって肌に潤いが出るため、かゆみが少なくなります。
気温が上昇したり、汗をかいたりすると、それが刺激になってかゆみがひどくなります。また、夏は細菌が繁殖しやすく、細菌によって皮膚の炎症が悪化するとかゆみが強くなります。
かゆいときに掻くのは自然ですが、アトピー性皮膚炎ではかゆくなくても、なんとなく癖で掻いてしまう「掻き癖(かきぐせ)」というやっかいな現象があります。同じ場所を繰り返し掻いているうちに条件反射のようになり、緊張したりストレスがかかると無意識に掻き動作が始まってしまいます。掻き癖による皮膚炎は治療が困難です。患者さんに掻き癖を自覚していただき、その癖を克服してもらうことが必須です。
アトピー性皮膚炎では、患者さんが強くひっ掻いたところがしばしば白くなります(図17)。
これは炎症と引っ掻きで血管が収縮するためです。この患者さんの爪をみると、常に引っ掻いているため、てかてか光っているのがわかります(図18)。
図19は膝の裏側ですが、指で同じ部位を繰り返し掻いているために、掻いている部位がその形なりにゴワゴワした皮膚になっています(苔癬化といいます)。また背中の発疹をみると(図20、図21)、手指が届きにくい部位は赤みがほとんどありません。掻くことで皮膚の炎症が増悪することがこれでよくわかります。もちろん、かゆいから掻くわけですが、掻くと病気は増悪してしまいます。ですから、かゆみが強い場合には、かゆみを発生させる皮膚の炎症を標準治療で抑えることが重要です。