血液検査では、TARC(ターク)値、好酸球数値、総IgE抗体値、特異IgE抗体値を測定します。すべて健康保険で検査できます。
アトピー性皮膚炎の重症度をよく反映します。重症の人は3,000pg/mlを超える場合もあります。治療によって500~700pg/ml以下まで下がると、見た目でもアトピー性皮膚炎とはわからない程度に軽症になった証拠です。TARC値は月に1回、健康保険で測定できます。
自分の病気の状態を数値で理解できるため、治療意欲につながります。
好酸球は白血球の仲間です。一般にアレルギー疾患で高くなることが知られています。TARC値と異なり、アトピー性皮膚炎の重症度の細かな指標にはなりませんが、アレルギー体質があるかどうかの指標になります。医療機関により正常値は若干異なりますが、九州大学では、4%以下を正常値としています。
IgE抗体はダニや食物などのアレルゲンに反応する血清成分です。重症になるにつれて、高くなることが知られています。TARC値と異なり、アトピー性皮膚炎の重症度の細かな指標にはなりませんが、アレルギー体質があるかどうかの指標になります。医療機関により正常値は異なりますが、九州大学では、250IU/ml以下を正常値としています。
IgE抗体の中で、ダニに特異的に反応するIgE抗体や食物に特異的に反応するIgE抗体などを測定する検査です。食物アレルギーのように、食後30分くらいでかゆみや赤みが出現するような疾患では、食物特異的IgE抗体値の測定は、疑わしい食物アレルゲンを特定する際に非常に有用です。アトピー性皮膚炎では、ダニ、スギ、小麦、卵白、牛乳、大豆、カンジダ、マラセチアなどの特異IgE抗体値を測定します。通常はダニに対する特異IgE抗体値がピークとなる分布をとります。ダニの値が一番高い場合は普通のアトピー性皮膚炎ですので、経験上ダニアレルゲン対策はほとんど必要ありません。ただし、患者さんにほこり過敏などの訴えがある場合は注意深く対処します。またごくまれに、ダニに対する特異IgE抗体値が低く、他のある特定のアレルゲンに対する特異IgE抗体値がピークになる患者さんがいます。そういう場合は、アレルゲン対策に注意しながら治療を行います。
アレルギー疾患は遺伝的な要因と環境要因とが複雑に関与して引き起こされる炎症性疾患と考えられています。この遺伝要因を調べることにより、アトピー性皮膚炎の病態を明らかにして治療や予防に役立てようという研究が世界中で進められています。
ヒトには染色体が46本あり、私たちはお母さんから半分(22本の常染色体とX染色体が卵子に含まれる)、お父さんから半分(22本の常染色体とXまたはY染色体が精子に含まれる)の遺伝情報を受け取りこの世に生まれてきます。この遺伝情報は4文字の遺伝暗号=A,G,C,Tで書かれており、ヒト同士では約99%配列が同じです。しかし一部、遺伝暗号の違う部分が存在することがわかってきました。この違いは遺伝子多型とよばれ、その一部は周辺の遺伝子の機能の変化(過ぎたる、及ばざる)をもたらします。それらが病気へのかかりやすさや、治療薬の効果や副作用の出やすさ等に関わると考えられています。アトピー性皮膚炎になりやすい遺伝暗号の違いを見つけると、その近辺にある遺伝子がアトピー性皮膚炎で大切な役割を果たしている可能性があります。この方法はゲノムワイド関連解析と呼ばれ、ヒトの病気の治療や予防の標的となる遺伝子を見つけるのに大きなヒントを与えてくれます。具体的には沢山の患者さんのサンプルを集めて、およそ数10万ヵ所の遺伝暗号について一般集団との違いを調べます。
現在、アトピー性皮膚炎については世界中で研究が進み、ヒトのゲノム(遺伝子)上に19ヵ所の発症に関わる遺伝領域が同定され、病態の理解に役立っています。それらの領域には寄生虫や虫さされに対する免疫応答に働く遺伝子、免疫反応を制御する働きのある遺伝子、表皮バリアで働く遺伝子などが多数含まれていました。アトピー性皮膚炎は、個人個人で症状が多様です。この19ヵ所の遺伝要因のほとんどをもっている患者さんもいますし、2〜3ヵ所のみをもつ患者さんもいらっしゃいます。その組み合わせは無数にあり、これらの遺伝要因の組み合わせが多彩な症状(重症化の程度、ヘルペスウイルスや黄色ブドウ球菌への感染頻度、皮膚の乾燥の強さ、かゆみの強さなど)に影響する可能性が考えられています。このことは万人に共通な画一的な治療は難しく、それぞれに合った治療法や環境の整備が必要であることを示唆しています。しかし、同定されたアトピー性皮膚炎の候補遺伝子の多くは環境応答遺伝子で、感染や表皮バリアの破壊、乾燥などの環境下で働く遺伝子です。たとえ遺伝要因を多く持っていても環境要因を整えれば、発症のリスクを抑えられる可能性は大いにあります。
またゲノムワイド関連解析が治療薬を見つけるきっかけとなることもあります。アトピー性皮膚炎の関連領域(第4染色体長腕4q27)には免疫の活性化に関わるIL2という遺伝子が含まれていました。現在、アトピー性皮膚炎治療に使用されているタクロリムス軟膏はこのIL-2タンパク質の働きを抑えます。これまで同定された他の遺伝領域にも、このようなアトピー性皮膚炎の治療に役立つ標的遺伝子が含まれていないか、今後の研究が期待されます。