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今回，ADに対する漢方療法のEBMによる評価を行うに当たり，一般に質の高いエビデンスとされているRCTによる報告数が少なかったため，前後比較による症例集積検討が多数を占める結果となった。その理由として，漢方療法の基本方針が随証治療であること，すなわち患者の呈する症状を陰陽，虚実など西洋医学とは異なった観点で捉えて「証」を決定し33，それに最も適した処方を当てはめる，というものであることがあげられる．その結果，AD患者を無作為に割付けた時点でバイアスがかかってしまうという事態に陥る．その他，ADに対し漢方方剤を単独あるいは組み合わせて使用した場合の臨床試験では，悪化因子による症状増悪が生じた場合に試験の継続が困難となり，他の治療法を併用しなければならなくなることが考えられる．また現実的な理由として，煎薬については内服方法が煩雑であり長期試験にそぐわない，あるいは漢方薬独特の味や香りといったものを保持したまま試験生薬と識別不能で薬効のないプラセボを作ることが技術的に難しい，ということが考えられる．
そのような中で､2008年に小林ら19によって補中益気湯を用いたRCTが報告された．この中で，アンケートにより対象患者の「証」を気虚に限定することでバイアスが可能な限りかからないように工夫されており，今後の漢方療法を用いた臨床試験における「証」の取り扱い方法のひとつが提示されたものと考えられる．ただし，「証」の取り扱いについては，個々の患者の診察を要するものであるため，必ずしもアンケートにより画一化されるものではないということを念頭においておかなければならないだろう．
結果に示す通り，ADに対して様々な漢方方剤が使用されているのが現状であるが，漢方方剤によっても有害事象が起こりうるということを失念してはいけない．よく知られているところでは，重篤なものとして小柴胡湯による間質性肺炎があり，その他甘草を含む方剤による偽アルドステロン症や麻黄を含む方剤による血圧上昇，地黄を含む方剤による胃腸障害などがある．今回検索した報告では重篤な症例は見られていないが，漢方方剤を臨床上で使用する場合も，有害事象を踏まえた経過観察が必要と考えられる． |
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