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アトピー性皮膚炎は文明病といわれていますが、文明化によるアトピー性疾患への影響は食生活の変化や抗生物質の多用、住環境の変化、家庭の電化など、さまざまな要因があります。これらの要因が相互に影響を及ぼし、腸内細菌叢の変化や細菌暴露の減少、ダニ・カビ・ペットなどの環境抗原の増加により免疫バランスが変化し、アレルギー体質化が進むと考えられています。また、夜型の生活パターンが増加していますが、睡眠不足による自律神経失調が自然治癒能力を低下させることも知られています。つまり、私たちの文明生活に伴うさまざまな変化により、アレルギー疾患が複雑なメカニズムで増加したと考えられます(図1)。
アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係は昔から問題にされていますが、この二つは別の病気です。乳幼児では合併している割合が高いものの、年齢が上がるにつれて合併率は減少していきます。アトピー性皮膚炎で食物アレルギーがない場合は、食物制限をすることによって成長障害を起こす可能性もあり、小児のアトピー性皮膚炎では特に注意が必要です。「アトピー性皮膚炎は食事制限だけで治せるでしょうか?」という質問がよく聞かれますが、アトピー性皮膚炎はダニ抗原やストレス、汗など多因子性疾患です。たとえば、食事制限や抗原の除去など1つだけを行なっただけで治る人は極めて少ないとお考えください。
通常、正常な皮膚には刺激に負けない皮膚のバリア機能が備わっていますが、アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能が破壊されて刺激に負けている状態にあります(図2-a,図2-b)。アトピー性皮膚炎治療で最も大切なことは、この破壊された堤防を修復して洪水をせき止めることです。
まずは薬物を使用して破壊された堤防、すなわち皮膚のバリア機能を改善します。そのままでは水位が下がらず薬を塗り続けなければならないのでその後、皮膚の状態を維持しながら悪化因子への対策とスキンケアを行うようにします。そうすれば徐々に薬物を減量することができ、最終的には保湿剤だけでコントロールできる状態にもっていくことができます(図2-c,図2-d,図2-e)。
ただし、ここで注意しなければならないのがステロイド外用薬の使用方法です。図3のようにステロイド外用薬の中途半端な使用は悪化を招くため、重症度に応じて必要な強度の薬剤を適切に使用することが重要となります。少し良くなったからといってすぐに薬を塗るのをやめてしまうと必ず症状はぶりかえし、いつまでたってもステロイド外用薬の量を減らす事が出来ません。ポイントは強めのステロイドを使用して早期に症状を鎮めることです。ステロイド外用薬は皮膚状態が改善してもしばらくは使用を継続し、少しずつ間隔をあけながら間欠塗布しその間は保湿剤を使用します。その後、保湿剤へと切り替えていきます(図4)。間欠塗布から保湿剤への移行が順調に進まない場合は、小児用タクロリムス軟膏を使用することによりステロイドからの離脱が容易となり、良好なコントロールが可能となるでしょう(図5)。(なお、小児用タクロリムス軟膏は2歳未満では使用できません。)
しっかりとこのような治療をすることで、本来のつるつるの肌を取り戻すことができ、しかもその状態を維持できるのです。
最後に、子どもの掻破行動を止めるちょっとしたコツをご紹介しましょう。図6-aは、子どもによくあるオペラント条件付けによる掻破行動を示したものです。アトピー性皮膚炎は痒い湿疹があり、そばには親がいます。痒みを訴えて掻けば、快感が得られ親の注目が集まるため、子どもはさらに掻くようになってしまいます。
このオペラント条件付けを解決するために心がけていただきたいのが、痒がるときには相手をせず、痒がらないときに相手をすることです。子どもの掻破行動を止めるには、この行動療法と同時に適切なステロイド外用剤を使用して短期間で皮膚をきれいにすることがポイントとなります。両方のタイミングをうまく合わせることにより、早ければ3日程度、長くても1〜2週間で子どもの掻破行動を止めることができます(図6-b)。
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※オペラント条件付け:自分が好ましいと思う事には積極的に、好ましくないと思うことにはそれを避けるような行動をとる学習のこと。 |
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