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アトピー性皮膚炎研究において、その病態に非常に大きく関与している痒みに注目して研究を行っています。アトピー性皮膚炎などの執拗な痒みを持つ皮膚疾患では、痒みがあるとその部位を引っ掻いてしまいますが、引っ掻くことで皮膚炎が悪化し、ますます痒みが強くなりさらに引っ掻いてしまう、といういわゆる「痒みー掻破行動の悪循環」が生じています(図1)。 |
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図1.かゆみ一掻破行動の悪循環 |
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つまり痒みをコントロールすることはアトピー性皮膚炎の治療上でとても重要であり、代表的なマウスのアレルギー性皮膚炎モデルでも(痒みによって惹起される)掻破行動の制御の重要性が示されています(図2)。 |
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図2.掻破行動をブロックすると皮膚炎反応は抑制される |
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痒みが生じる機序として、病変皮膚の炎症細胞から分泌されるヒスタミンが古くから知られていますが、アトピー性皮膚炎では他にもサブスタンスPやプロテアーゼなどの様々な炎症性痒み物質の存在や、慢性皮膚病変での表皮上層まで侵入している知覚神経が示され、その難治性痒みとの関連が注目されています(図3)。 |
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図3.ハプテンの反復塗布による慢性皮膚炎の
表皮内神経伸長 |
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しかしまだアトピー性皮膚炎の炎症と痒みについては未解明の部分が多く、使用されている痒みに対する治療薬も限られているのが現状です。
そこで、その解決の糸口のひとつとして、ハプテン反復塗布によるマウスの慢性皮膚炎モデル(アトピーと同様に“Th2型皮膚炎反応”を示すことが知られています)を用いて、表皮内の知覚神経と皮膚炎の重症度と痒み(掻破行動)の関係を検討しました。その中で、当教室で開発したMAPK/ERK kinase1/2 (MEK1/2) シグナル阻害薬CX-659S(図4)の痒み抑制作用の有無も検討しました。 |
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図4.CX659Sによる抗炎症メカニズムの一つ |
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というのもMEK1/2シグナル経路は、神経の伸長や再生に重要で、その阻害薬であるCX-659SによりMEK1/2経路を抑制することで、「表皮知覚神経の伸びを抑えて痒みも抑えられるのではないか?」と考えたのです。しかし、これまでに判明したことでは、CX-659Sは表皮内の神経伸長はしっかり抑えるものの、マウスの掻破行動は抑えられませんでした(図5)。 |
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PC: picryl chloride, CX: CX659S, FK: FK506, BV: betamethazone valerate
Kido et al, J Dermatol Sci, 2010 |
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図5.表皮内神経伸長をおさえても掻破行動は必ずしも減少しない。 |
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