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Inhibition of the aryl hydrocarbon receptor prevents Western diet-induced obesity. Model for AHR activation by kynurenine via oxidized-LDL, TLR2/4, TGFβ and IDO1.

Moyer BJ, et al. Toxicol Appl Pharmacol. 2016 Jun 1; 300: 13-24. doi: 10.1016/j.taap.2016.03.011.

 肥満は増え続ける緊急のグローバルな問題である.しかしながら,その原因や, 肥満をいかにして効果的に治療できるのかは十分に明らかにされていない。我々はかつて,欧米型食事のマウスにおける体格調整におけるaryl hydrocarbon receptor (AHR) の役割を明らかにした。AHRはリガンド結合により活性化される核内受容体であり,異物代謝やT細胞極性化を含む多くの生反応経路に関わる遺伝子発現を調整する.本研究ではAHRの抑制が欧米型食事による肥満を防止するのかについて検討した。


 オスC57Bl/6Jマウスに,コントロールと欧米型食事を摂取させ,AHRアンタゴニストのα-naphthoflavoneまたはCH-223191の投与の影響を検討した.さらに,マウス肝細胞株を細胞内経路の関与を明らかにするために用いた。
 α-naphthoflavoneとCH-223191は,欧米型食事のオスC57Bl/6Jマウスにおいて,有意差をもって,肥満と脂肪蓄積を抑制し,脂肪肝を改善した。トリプトファン代謝酵素のindoleamine 2,3-dioxygenase 1 (IDO1) 欠損マウスも肥満に対して抵抗性を示した。マウス肝細胞株を用いてAHRによるプロモーター活性をルシフェラーゼアッセイで評価したところ,PI3KとNF-κBを介するTGFβ1シグナル伝達系と酸化LDL刺激下のNF-κBを介するtoll-like receptor 2/4 (TLR2/4)シグナル伝達系は,それぞれルシフェラーゼ発現を誘導した。しかしながら,TLR2/4シグナルはIDO1を抑制することにより有意に低下した。生理的濃度ではキヌレニン酸ではなくキヌレニン(両者ともトリプトファンの代謝産物でAHRのアゴニストとして知られている)はルシフェラーゼ発現を高めた。


 以上の結果より, 我々は肝細胞におけるAHRシグナルを介した肥満, 脂肪肝の機序について以下の説を提唱する。 PI3KとNF-κBを介するTGFβ1とTLR2/4シグナルによりIDO1活性は増強し, キヌレニン産生は増加し,肥満を引き起こすAHR活性化のサイクルが長期化する。逆に,AHRの抑制はこのサイクルをブロックし肥満を抑止する。幅広いリガンド結合を有するAHRは肥満と関連する合併症の予防と治療においてターゲットの候補となることが期待される。


コメント:ダイオキシン類の高濃度曝露はwasting syndromeをもたらす。しかし,本論文ではAHRを介して肥満と非アルコール性脂肪性肝疾患と関連する恐れがあることを示している。ダイオキシン類の長期的な曝露により肥満となる恐れがあることは,第一世代のみならず,第二世代の健康に関しても問題となるかもしれない。



近藤 英明 2017/08/4


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