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A constitutive active MAPK / ERK pathway due to BRAFV600E positively regulates AHR pathway in PTC.

Gianluca Occhi, et al. Oncotarget. 2015 Sep 16. [Epub ahead of print]

【要旨】
 Aryl hydrocarbon receptor (AHR) はダイオキシンなどをリガンドとして活性化される転写因子である。AHRは様々な充実性腫瘍に過剰発現し、活性化していることが報告されているが、甲状腺乳頭癌(PTC)でのAHRの役割についてはほとんど報告がない。今回筆者らは、PTCにおいて高頻度に認められる遺伝子変異であるBRAFV60fu0EがMAPK/ERK経路の活性化と関連して、AHRも活性化していることを示した。

 筆者らはPTCの組織51例を検討し、BRAFV600E(Key words参照)陽性のPTCにおいて、AHRのmRNAおよびタンパク質発現が上昇していることを示した。その際、ARNT、AHRRのmRNA発現の上昇はみられなかった。次に、PTC由来の細胞株を用いて検討した結果、BRAFV600E陰性の細胞株ではAHRのmRNAおよびタンパク質発現がほとんどないことを確認した。また、BRAFV600Eを導入したHEK293細胞ではAHR活性が上昇しており、BRAF阻害剤処理により、濃度依存性にAHR活性が低下することを確認した。BRAFV600E高発現によりAHRのタンパク質量増加は見られなかったが、蛍光免疫染色でBRAFV600EがAHRの核内移行を促進していた。さらに、BRAFV600Eを有する3種のPTC細胞株をBRAF阻害剤で処理すると、いずれにおいてもp-ERKが減弱しており、中でもBCPAPという細胞株では、BRAF阻害剤処理により、AHRタンパク質の発現減少が認められ、AHRの転写活性も低下することがわかった。

 以上より、BRAFV600Eが、外因性リガンド非依存的に、MAPK/ERK経路の活性化と関連して、AHRの核内移行を誘導し、転写活性を増加させていることが明らかになった。AHR経路は、PTCにおいて新しい治療のターゲットになる可能性が示唆された。


【Keywords】

BRAFV600E
甲状腺乳頭癌の36~69%がBRAF遺伝子変異を有しており、BRAFV600Eは甲状腺乳頭癌のBRAF遺伝子変異の90%以上を占める。BRAF遺伝子は、細胞外の刺激を核へ伝達するMAPK/ERK経路を調整しており、BRAFのリン酸化でMEK1/2が活性化され、ERK1/2を介してシグナルカスケードの活性化がおこる。BRAFV600Eは、600番目のコドンであるバリンがグルタミン酸へ置換されており、このため下流のシグナルカスケードが常時活性化され、細胞外からの刺激がなくても自己細胞増殖をもたらす。

冬野 洋子 2015/10/7

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