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Tobacco smoke-induced skin pigmentation is mediated by the aryl hydrocarbon receptor

Experimental Dermatology. 2013, 22, 554-563

【要旨】

 喫煙が皮膚の色素沈着を引き起こすことはよく知られている。しかし、その機序について直接調べた研究はなかった。色素沈着は日光曝露などでメラニンの産生が増えた結果生じる。他に芳香族炭化水素受容体(AhR)に2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)などのリガンドが結合することで、皮膚の老化や色素沈着を起こすことも知られている。また、タバコに含まれるTCDDがWnt-β-カテニンシグナルによってAhRを活性化するという報告もある。


 本研究では、タバコの煙から水に抽出した成分(タバコ抽出液)がヒトのメラノサイトでメラニンの産生を引き起こしているか、また、どのような機序で喫煙による皮膚の色素沈着が起きるのかを調べた。


 メラノサイトをタバコ抽出液とともに培養したところ、ヒトの表皮のメラノサイトは大きくなり、より多くのメラニンを産生した。また、メラノサイトの活性化の指標となる小眼球症関連転写因子(MITF)の発現量を測定すると、MITFの発現がタバコ抽出液の曝露により有意かつ用量依存的に増加した。β-カテニンについてもタバコ抽出液により、メラノサイトでの発現が有意に増加した。
 免疫染色の結果、タバコ抽出液によりメラノサイトの核近傍にAhRが局在していた。これは活性化したAhRが核内移行するという過去の報告から、タバコの煙によりAhRが活性化したことを示唆している。また、タバコの煙によるMITFの発現はAhRのsiRNAによって抑制された。


 以上の結果より、タバコの煙がメラノサイトを活性化して色素沈着を増加させること、メラノサイトの活性化がWnt-βカテニン経路とAhR-MITF経路によって調節されていることが明らかになった。


【Keywords】

●芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor:AhR):ダイオキシンなどのリガンドにより活性化し、
  種々の遺伝子の転写活性化を引き起こす転写因子
●2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD):最も毒性が高いダイオキシン類
●Wnt-β-カテニン経路:細胞外分泌糖蛋白であるWntが受容体と結合するとβ-カテニンが安定化し核内移行して、
  種々の遺伝子発現や細胞の増殖や分化のシグナルを出す

 


手島 鋭 2014/05/08

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