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Involvement of Aryl hydrocarbon receptor in myelination and in human nerve sheath tumorigenesis.
(髄鞘形成とヒト神経鞘腫瘍の発生におけるAryl Hydrocarbon Receptorの関与について)

Shackleford G, Sampathkumar NK, Hichor M, Weill L, Meffre D, Juricek L, Laurendeau I, Chevallier A, Ortonne N, Larousserie F, Herbin M, Bièche I, Coumoul X, Beraneck M, Baulieu EE, Charbonnier F, Pasmant E, Massaad C.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Feb 6;115(6):E1319-E1328.

芳香族炭化水素受容体(Aryl Hydrocarbon Receptor: AHR)は、薬物代謝に関与するリガンドによって活性化される転写因子である。
蔓状神経線維腫 (Plexiform neurofibroma: PNF)は、悪性末梢神経鞘腫(malignant peripheral nerve sheath tumor: MPNST)に進展することがあり、MPNSTは既存の治療に抵抗性である。これらの腫瘍は、末梢神経細胞の軸索を取り囲む神経膠細胞であるSchwann細胞から構成されている。Schwann細胞の悪性化にはNeurofibromatosis type 1 (NF1)遺伝子の不活性化に加えて、さらなる遺伝子の異常が必要とされる。

著者らは、38の検体(Dermal neurofibloma: 8例、PNF: 16例、MPNST:14例)におけるAHRとAHRに関連する遺伝子のmRNAの発現レベルを評価した。その結果、PNFとMPNSTにおいて、AHRと内因性のAHRのリガンドを生合成する酵素群(IDO1, TDO1)が過剰に発現していることが明らかとなった。また、免疫染色ではMPNSTにおいてAHRが核内に強く染色されることが明らかとなった。MPNSTの細胞株を用いた実験では、AHRをsiRNA、CH-223191(AHR antagonist)、trimethoxyflavoneで抑制したところ、細胞のアポトーシスが誘導された。

PNFとMPNSTにおいて、AHRの機能異常があることが分かったため、Schwann細胞におけるAHRの役割について検討を行った。AHRノックアウトマウスにおける運動機能と髄鞘の形成について検討したところ、AHRが欠損すると、マウスの運動機能は障害され、軸索周囲の髄鞘が薄くなることが分かった。さらに、AHRノックアウトマウスでは髄鞘を構成するのに必要な遺伝子と髄鞘の発育に関する遺伝子の発現に異常を生じることが分かった。興味深いことに、AHRが髄鞘を構成するのに必要な遺伝子のプロモーター領域に直接的に結合するのではなく、AHRの働きを抑制すると、β-カテニンの発現が増加し、そのβ-カテニンが髄鞘を構成するのに必要な遺伝子のプロモーター領域に直接的に結合することで、遺伝子の発現に異常を来していた。

今回の研究で、末梢神経の髄鞘の形成と末梢神経鞘腫におけるAHRの働きが明らかとなった。最後に、神経腫瘍に対してAHRをターゲットにした治療的方法の可能性が示唆された。



辻 学 2019/06/05


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