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Solar simulated light exposure alters metabolization and genotoxicity induced by benzo[a]pyrene in human skin

Koschembahr A, et al., Sci Rep. 8:14692, 2018.

背景・目的
 皮膚は体外の障害に対する主要なバリアであり、様々な組み合わせの化学的/物理的な有害物質・作用に曝露されている。また人の健康、特に労働安全を考える上で皮膚における多環芳香族炭化水素(polycyclic aromatic hydrocarbons:PAH)への曝露と、日光紫外線(UV)への曝露は、主要な懸念の一つである。
 in vitroにおける研究では、UVBがAryl hydrocarbon receptor:AhRを介してcytochrome P450 (CYP)を過剰発現させ、PAHの一種Benzo[a]pyrene:B[a]PをDNA障害性の代謝物に変換することが報告されているが、本研究ではより現実的な条件、すなわちヒト皮膚外植片と疑似太陽光(simulated sun light:SSL)を用いたex vivoの解析により、B[a]PとSSLへの共曝露がB[a]Pの代謝に与える影響を明らかにすることを目的とした。

方法
 同意を得たドナーから生検で得られた皮膚片、及び同じドナーの皮膚から分離した正常ヒト表皮細胞(NHK)を主に使用した。皮膚片、及びNHKは①B[a]P(100 nmol)添加、②SSL(2 MED)照射、③SSL照射1時間後B[a]P添加、④B[a]P添加24時間後SSL照射の4条件で処理し、PCRによりCYPの発現を測定すると共に、最も高頻度に発生するDNA付加物 (DNA adduct) の一つであるBPDE-N2-dGuoをHPLC-MS/MSにて定量することで、DNA損傷を評価した。

結果
 皮膚片をB[a]P単独で処理した場合、処理48時間後をピークとしてCYP1A1・1A2・1B1の発現が有意に増加し、DNA adduct (BPDE-N2-dGuo)も時間経過と共に顕著に増加したが、SSL照射単独ではCYP1A1・1A2発現のわずかな増加を認めるのみであり、DNA adductの形成も認めなかった。
 次にB[a]PとSSL両方で処理した場合、B[a]PによるCYP発現の誘導はSSL照射によって強力に阻害されており、またB[a]P処理24-48時間の時点においては、B[a]PによるDNA adductの増加もSSL照射により抑制されていた。
 一方で、B[a]P処理96時間後にはSSL照射の有無に関わらず同程度のDNA adductが検出されたことから、ヒト皮膚へのSSL照射はB[a]PによるDNA adductの形成を遅らせていることが示唆された。同様の傾向は、同一ドナーのNHKを用いた解析においても観察された。また、ヒト表皮細胞株(HaCaT細胞)をB[a]Pで処理し、UVB(6 mJ/cm2)を照射した場合にもDNA adductの形成が抑制されていた。

考察・結語
 in vitro研究の知見とは異なり、ex vivoの皮膚片におけるB[a]P誘導性のCYP発現亢進とDNA adductの形成は、SSL照射により強く阻害されることを明らかにした。これは即時的な反応としては良い影響のようにみえる一方、日光に曝露した皮膚ではB[a]Pを含むPAHの代謝が遅れることでこれらが皮膚により長期間蓄積し、遅延性の遺伝毒性を発現する可能性があることを示唆している。

キーワード:Benzo[a]pyrene, simulated sun light, cytochrome P450, aryl hydrocarbon receptor, DNA adduct



田中 由香 2019/02/04


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