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Androgen disruption by dioxin exposure in 5-year-old Vietnamese children: Decrease in serum testosterone level

Oanh NTP, et al. Sci Total Environ 2018; 640-641: 466-474.

背景
ダイオキシンは古くより内分泌攪乱物質として知られている。ベトナム戦争で散布された枯葉剤には高濃度のダイオキシンが含まれていた。著者の研究グループは、ベトナムの汚染地域に居住していた女性の母乳中のダイオキシン濃度と、その児の副腎ホルモン合成能との関連性について調べている。
Dehydroepiandrosterone (DHEA)は主に副腎皮質で生成され、女性、男性ホルモンの基となるホルモンである。これまでの研究で、1)汚染地域に居住していた女性(母)の副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の上昇がみられ、2)母乳中のpolychlorinated dibenzodioxin/dibenzofuran (PCDD/PCDF)異性体濃度と3歳時点の児の唾液中DHEA濃度の間に負の相関があることが、分かっている。


要旨
この研究では、DHEAやテストステロンなど男性ホルモン生成経路に着目して、母乳を介したダイオキシン曝露が児に与える影響を調べた。対象はベトナムの高濃度曝露地域の35の母児ペア、非曝露地域(対照群)の50のペアである。2008年に産後4-16週の母乳を回収し、各種ダイオキシン類異性体濃度をガスクロマトグラフィーで測定した。さらに2013年、5歳になった児の血液を採取し、血清中7種のステロイドホルモンと各酵素活性を測定した。
その結果、母乳中のダイオキシン類濃度は曝露地域では非曝露地域と比べて2-10倍ほど高濃度であり、児の血清中DHEAとテストステロン濃度は非曝露群と比して有意に低濃度だった。母乳中の複数のダイオキシン類異性体濃度とDHEAやテストステロン濃度が負の相関を示した。さらに児では、CYP17-lyase、17β-HSD活性が減少しており、DHEAとテストステロン生成低下に寄与していると考えられた。


結論
ベトナムの研究において、母乳を介したダイオキシン曝露が児のステロイド合成酵素活性を抑制し、男性ホルモン生成が抑制されていることが示された。


Keywords:
DHEA: dehydroepiandrosterone, 主に副腎、性腺や脳でも生成されるホルモン。その生物学的役割は不透明だが、近年、鬱や認知症など精神疾患との関連性、抗炎症、免疫調整、抗酸化作用といった多彩な作用をもつことが報告されている。
ベトナム戦争とダイオキシン:ベトナム戦争中に散布された枯葉剤には高濃度の2,3,7,8-tetrachlorodibenzodioxin(TCDD)が含まれていた。


ステロイドホルモン合成経路、児に見られた結果


三苫 千景 2018/11/26


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