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Hyperpigmentation and higher incidence of cutaneous malignancies in moderate-high PCB- and dioxin exposed individuals.

Leijs MM, et al. Environ Res. 2018; 164: 221-228.

背景・目的
ポリ塩化ビフェニル(PCB)はなかなか分解されずに環境に存在し続ける有毒性の汚染物質である。
日本(米ぬか油への混入)や台湾(米油への混入)の例のように、同物質への曝露はほとんどが経口的だが、呼吸器・皮膚を介した吸収経路もあり、同物質が排出される工場での労働中の曝露がこれにあたる。2010年ドイツで、工場の労働者が適切なPCBの処理がなされなかったために高濃度の同物質に曝露されていたことが明らかになった。
この研究は、これらに曝露された労働者やその家族、工場の周辺住民を参加者とした前向き調査であり、2010年から2016年にかけて総勢1198人に対して行われた。その目的は、PCBの曝露による皮膚への影響ないし病態生理を明らかにすることである。


結果・考察
1.皮膚悪性腫瘍
悪性黒色腫はin situではあるが2人に検出されており、ドイツにおける同疾患の推定発症率(18.2/10万人2010年)より高い確率である。紫外線の影響が原因として広く知られているが、PCBのように環境汚染物質のような他の因子が深く関わっていることを示す研究もあり、これによれば、PCBを高濃度で摂取すると同疾患の発症リスクは4倍になる。
また、非悪性黒色腫(基底細胞癌や菌状息肉症など)についてもPCB曝露群の方が高かった。PCBは国際がん研究機関によりヒトの発癌物質の1つと位置づけられており、発癌のメカニズムとしては活性酸素の生成や免疫抑制、遺伝子毒性などが挙げられている。加えて、血中PCBの濃度が高いと黒子の数も多いという報告がある。
2.痤瘡
参加者の30%に痤瘡を認めたが、一般の集団と比較してやはり発症率は高い。塩素痤瘡が疑われる症例もあり、これは尋常性痤瘡と性状や分布が異なる。すなわち、尋常性痤瘡のような強い炎症は認められず、病変は顔面のみならず体幹・鼠径部・四肢にわたる。早期では主に顔面や頚部に、後期では体幹や四肢、性器に広がるとする説もある。痤瘡は血中のPCBの濃度の減少に伴い改善した。
3.色素沈着
血中PCB濃度と色素沈着の密接な関係が統計学的に明らかになった。日本や台湾の例でも同症状は認められたが、今回の研究の参加者の場合はさらに機序が複雑となる。芳香族炭化水素受容体(Aryl hydrocarbon receptor:AhR)を介したメラニンの増加に加えて、直接皮膚に触れることで接触皮膚炎を誘発し、それにより炎症後色素沈着が生じている可能性があるほか、UVBの曝露も共同して影響していることが考えられる。


結論
ドイツの調査でも、PCBの曝露と様々な皮膚疾患との関連が明らかになった。



井手 豪俊 2018/8/30


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