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Induction of AhR-Mediated Gene Transcription by Coffee.

Ishikawa T.1 et al.
PLoS ONE 9(7): e102152.doi:10.1371/journal.pone.0102152
1 Department of Internal Medicine, Teikyo University School of Medicine, Tokyo, Japan,

AhRは、有害な生体異物であるTCDDなどのダイオキシンやBaPなどの多環芳香族炭化水素(PAHs)によって活性化される転写因子として知られているが、内因性物質(ビリルビン)や食品成分(indole-3-carbinole)、薬物代謝産物(MTH)などによっても活性化されることが知られている。

PAHsは炭素を含む物質を比較的低い温度で燃焼させる時に発生し、約240℃で煎られたコーヒー豆に含まれることが報告されているが、コーヒー飲料が実際にAhRを介した遺伝子転写を促進するかはわかっていない。今回我々は培養細胞がコーヒーに暴露されることでAhRが活性化されるかを調べた。元々培地に含まれるAhRアゴニストによる干渉を除外するために、普段よく使うFBSを含むDMEMの代わりにCaとMgを除いたPBSと成人血清(AHS)を使用した。 細胞株はHepG2(ヒト肝細胞癌細胞)、Coca-2(ヒト大腸癌細胞)、MCF-7(ヒト乳癌細胞)を使用した。
またAhRに反応するレポーター遺伝子を安定して発現するHepG2-XREを作成した。

結果
PBS、AHS、熱不活性化処理をされたFBS、DMEMそれぞれで4時間培養したHepG2-XREでは、DMEMにおいてのみAhRを介した転写促進が起こり、PBS、AHS、FBSでは起こらなかった。培地による干渉を避けるためPBSを使ってサンプルとHepG2-XREを培養したところ、全てのコーヒー飲料でAhR活性が起こり、ココア2種でも弱い活性化が起こった。混合飲料の3/4でも活性化が起こった。PBS単独培地で最もAhR活性を起こしたスターバックスのブラックコーヒーを、培地をAHS単独と、PBSに50%AHSを混ぜたものに変えて同様に実験したところ、PBS培地ではTCDD、MTH、BaPよりも高かったAhR活性化が、50%AHSではTCDD、MTHより低くなり、AHSではBaPより低くなった。

コーヒーと、その他のAhRアゴニストがAhRを活性化する程度には差があり、それは実験においてPBSが使われたかAHSが使われたかに依存する。CYP1A1mRNAの発現はPBSとAHSの両方での培地においてHepG2、Coca-2、MCF-7細胞全てでMTH、BaP、TCDD、スターバックスのブラックコーヒーによって増強したが、CYP1A1タンパクの発現はPBS培地では検出できなかった。AHS培地では、MTHは3つの細胞株においてCYP1A1タンパクの発現を増強し、TCDDはHepG2においてのみ増強し、BaPは3つとも増強しなかったが、コーヒーは3つの細胞株全てにおいて他のAhRリガンドよりも強くタンパクの発現が見られた。

コーヒーによるAhR作用は明らかにはなっていないが、今回我々は普段よく使われる培地の代わりにPBSやAHSを使うことで培養細胞においてコーヒーがAhRを活性化させることを示した。

永江 航之介 2015/12/9

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