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Tryptophan derivatives regulate the transcription of Oct4 in stem-like cancer cells.

Cheng J, et al.
Nat Commun 2015 Jun 10; 6: 7209. doi: 10.1038/ncomms8209.

(背景)
Octamer-binding transcription factor 4(Oct4)は未分化胚性幹細胞の自己複製に関与している転写因子である(Niwa H, et al. Nat Genet, 2000)。芳香族炭化水素受容体(aryl hydrocarbon receptor, AhR)の外因性リガンドの中には, このOct41)の転写を抑制し, 胚性幹細胞の分化や, がん細胞の増殖, 転移能を制御しているという報告があるがその機序ははっきりしていない。この研究では, AhRの内因性リガンドでトリプトファン代謝産物の一つのITE2)が, Oct4を制御して細胞の癌化を抑制しているかどうか検討した。

(結果)
ITEはAhRを活性化し, Oct4の転写を抑制していた。トリプトファンが少ない状況や低酸素状態など内在性のITEが減少している状態では, Oct4の転写は亢進しており, ITEを添加すると, Oct4の転写は抑制された。またITEによってOct4が抑制されると, がん幹細胞による腫瘍(コロニー, sphere)形成能も抑制された。U87(アストロサイトーマ, 脳腫瘍)やLNCap細胞(前立腺がん細胞)を皮下に接種した担がんモデルマウスにおいても, ITEを皮下や腹腔内に定期的に投与すると、がん細胞の増殖が抑制することが確認された。以上より, ITEは生体内において, AhR活性化を介してOct4の転写を負に制御し, がん細胞の幹細胞に似た性質を抑制していることが明らかになった。

1) Oct4: 多能分化能を制御している転写因子の一つ。幹細胞ではその発現が高く未分化のマーカー。

2) ITE: 必須アミノ酸, トリプトファンの代謝産物の一つ。卵巣がんの増殖, 遊走能を抑制したという報告あり。
  (Wang K, et al. Cancer Lett, 2013)



三苫 千景 2015/7/27

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