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β-Catenin signaling induces CYP1A1 expression by disrupting adherens junctions in Caco-2 human colon carcinoma cells

Biochim Biophys Acta, in press, 2012

【要旨】

aryl hydrocarbon receptor (AhR) は良く知られたリガンド活性化型転写因子のひとつである。今回、筆者たちは創傷治癒過程における AhR の役割に着目して研究を行った。


実験にはヒト結腸癌由来細胞株である Caco-2 細胞を用いた。この細胞をカルシウム除去培地 (以下、S-MEM) で培養することで、細胞間の接着接合が破綻するため、創傷治癒モデルとして用いることができる。また、一部の実験では、AhR 活性化のポジティブコントロールとして TCDD を用いた。


まず、S-MEM により、AhR の核内移行の促進が認められ、それに伴い CYP1A1 および Slug mRNAの発現増加が見られた。CYP1A1 は S-MEM、TCDD 共に発現増加が認められ、AhR siRNA および AhR 阻害剤 (PD98059, MAF) 処理下で発現抑制された。しかしながら、Slug は EMT (epithelial-to-mesenchymal transition: 上皮間葉転換) 関連遺伝子であるため、S-MEM での発現増加は認められたが、TCDD で発現誘導されなかった。 したがって、以降の検討では、AhR の標的遺伝子として CYP1A1 に着目した。


次に、AhR の活性化を引き起こす因子の検討を行った。はじめに、E-カドヘリンの関与を調べた。E-カドヘリンはカルシウム依存性の細胞内接着因子であり、S-MEM によって放出が促進されると考えられる。E-カドヘリンのフラグメント (CTF2) および切断に関与する γ-secretase の特異的阻害剤 (DAPT) を用いた検討により、S-MEM 処理後の CYP1A1 発現に E-カドヘリンが関与しないことが示された。そこで、E-カドヘリン複合体の構成因子である β-カテニンの関与を調べたところ、β-カテニンと AhR が直接結合していることが明らかになった。TCDD 処理下では AhR と β-カテニンとの直接結合は認められなかったため、S-MEM 処理下では β-カテニンがリガンドとなって AhR を活性化していることが示唆された。そして、β-カテニン siRNA 処理下では、AhR mRNA およびタンパク質が共に増加することも明らかになった。この意義は、現在検討中である。


以上の結果より、細胞間の接着接合の破綻による一部の遺伝子の発現誘導が AhR に依存していることが示された。AhR が創傷治癒に関与する分子メカニズムの一端を明らかにした。


【Keywords】

・aryl hydrocarbon receptor (AhR): リガンド活性化型の転写因子であり、核内受容体のひとつ。代表的な
 リガンドとして環境物質であるダイオキシンなどが知られている。
・TCDD: 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin。 ダイオキシン類の一つ。


古賀 沙緒里 2013/01/07

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