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The Cutaneous Lesios of Dioxin Exposure: Lessons from the Poisoning of Victor Yushchenko.

Toxicol Sci. 2012 Jan;125(1):310-7. Epub 2011 Oct 13.

【要旨】

これまで「塩素ざ瘡」がダイオキシン中毒のときの最も特徴的な皮膚症状とされ、昔から重要な指標として使用されてきた。著者らは最も毒性の強いダイオキシンである2,3,7,8-tetorachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)に、一般人1日被曝量の500万倍量被曝した一人の男性(Victor Yushchenko)の経過を5年に渡って観察した。


被曝後、顔面・耳介に小結節ができ、急速に痛みと炎症を伴う嚢腫になった。被曝10週後には体幹にも病変が出現し、9ヶ月後には全身に拡大し体表の40%に及んだ。被曝43ヶ月後までに53ヶ所から皮膚生検が行われた。組織学的には過誤腫で、脂腺の退化がみられ、上皮性嚢腫を形成し、嚢腫壁にTCDDの代謝酵素であるcytochrome p450 1A1(CYP1A1)の発現が部分的に強くみられた。また皮膚組織の遺伝子発現解析では、脂質代謝の抑制と骨形成タンパク質シグナルの関与がみられた。in vivo や動物実験で、CYP1A1の発現はTCDDの毒性と相関性があることがわかっており、アラキドン酸はCYP1A1さらにCYP1A2の基質である。著者らは、過誤腫の嚢腫壁にCYP1A1が発現していたことから、活性化アラキドン酸誘導体がTCDDの効力と関連があるのではないかと推測しており、またCYP1A1そのものがダイオキシン第Ⅰ相の代謝に関連している可能性も推測している。


里村 暁子 2012/8/1

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