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Aryl hydrocarbon receptor-mediated induction of EBV reactivation as a risk factor for Sjögren’s Syndrome.

The Journal of Immunology. 188(9), 4654-4662, 2012

【要旨】

aryl hydrocarbon receptor (AhR) はTCDDやダイオキシン類などの環境汚染物質が結合することで活性化される転写因子であり、様々な生物学的活性を有していることが知られている。これまでに、ダイオキシン類が生体にもたらす有害作用に関して多くの研究がなされてきたが、ダイオキシン類が生体に及ぼす危険性についてはまだ不明な点も多い。そこで、筆者らはダイオキシン類によって活性化したAhRがEBウイルスの再活性化に影響を与えるか検討した。


EBウイルスは、世界中で90%以上のヒトが感染していると言われており、通常は潜伏感染のままで症状は示さない。しかしながら、何らかの刺激や宿主の免疫機能が低下した場合に再活性化され、自己免疫疾患やがんの発生に寄与すると考えられている。


今回、筆者らは活性化したB細胞または唾液腺上皮細胞において、TCDDがEBウイルスの再活性化を引き起こすことを見出した。また、この活性化はAhR依存的であることも明らかにしている。 次に、EBウイルス感染との関与が示唆されているシェーグレン症候群患者の唾液を用いた検討を行った。シェーグレン症候群の患者では重度のドライアイ(目の乾き)やドライマウス(唾液の分泌低下)を呈することが知られているため、対照群として健常者または重度のドライマウス患者から採取した唾液を用いた。唾液中のAhR活性およびEBウイルスの活性化を検討した結果、健常者や重度のドライマウス患者と比較して、シェーグレン症候群患者ではこれらの活性が有意に上昇していることが明らかになった。また、AhR活性とEBウイルスの活性化には正の相関があった。さらに、シェーグレン症候群の患者ではSSA/RoとSSB/Laに対する自己抗体が出現することが知られているが、このうちSSB/Laに対する自己抗体とAhR活性やEBウイルスの活性化の間に正の相関があることも示した 。


以上の結果より、AhRの活性化を引き起こす物質がEBウイルスの再活性化に関与する可能性が示された。さらに、自己免疫疾患の病因としてAhR依存的な経路があることが示唆された。


【Keywords】
aryl hydrocarbon receptor (AhR): リガンド活性化型の転写因子であり、核内受容体のひとつ。代表的なリガンドとして環境物質であるダイオキシンなどが知られている。
シェーグレン症候群: 膠原病のひとつ。涙腺や唾液腺が慢性炎症を起こし、重度のドライアイやドライマウスを主症状とする自己免疫疾患。他にも関節や皮膚など全身性に炎症が認められる。自己抗体としてSSA/RoまたはSSB/Laに対する抗体が検出される。

古賀 沙緒里 2012/5/28

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