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HDAC6 modulates Hsp90 chaperone activity and regulates activation of aryl hydrocarbon receptor signaling.

J Biol Chem. 2009 Mar 20;284(12):7436-45.

TCDDなどのダイオキシンはAhRに結合し、下流にシグナルが伝達され、様々な影響を及ぼすことが判明している。そのシグナル伝達にHsp90が関与している。一方、Histone Deacetylase (HDAC) 阻害剤はヒストンの他、様々な基質をアセチル化し、種々の転写・伝達経路に影響を及ぼす。今回Hsp90のアセチル化によってAhRのシグナル伝達がどうなるのか、またその際、どのHDACが阻害されるのかに関心をもち、今回の論文を紹介することとした。

抄訳:
Aryl hydrocarbon receptor (AhR)は、転写因子であるヘリックスループファミリーのリガンド活性化メンバーである。リガンドとしてpolycyclic aromatic hydrocarbon(PAH)や環境物質であるTCDDがAhRに結合する。PAHやポリ塩化ダイオキシンの生化学的、生物学的、毒物学的な多くの作用は,AhRによって少なくとも一部は触媒されている。AhRは、様々な物質を可逆的にアセチル化することができるシャペロン分子Hsp90の関与を受ける。

今回の研究の主な目的は、Hsp90のアセチル化を変化させることで、リガンドにより誘発されるAhRのシグナル伝達の活性化がどうなるかを検証することである。Trichostatin A (TSA)とsuberoylanilide hydroxamic acid (SAHA)は幅広くHDACを阻害する物質であり、様々な基質のアセチル化を促進する。

今回、ヒト気道消化管由来の細胞で、HDAC阻害剤はダイオキシンやPAHが誘導するCYP1A1やCYP1B1を阻害することが判明した。また、HDAC6の発現を抑制、もしくはtubacinを用いてHDAC6を抑制すると、同様にCYP1A1やCYP1B1を阻害することが判明した。

HDAC6の阻害によってHsp90のアセチル化は促進され、結果AhRやcochaperoneであるp23やXAP-2との結合複合体が崩れる。また、AhRへのリガンド結合が抑制され、AhRが細胞質から核への移動が抑制される。リガンドをAhRに結合させた時、HDAC6が不活化されるとAhRによって誘導されるCYP1A1やCYP1B1のプロモーター発現は低下することがわかった。Hsp90Lys294を変異させ解析したところ、Hsp90Lys294のアセチル化は,AhRとp23の相互作用とリガンドにより誘発されるAhRシグナル伝達の強い決定要素であることが判明した。

以上より、HDAC6の活性化はHsp90のアセチル化を制御し、Hsp90のAhRシャペロン化やAhR依存性の遺伝子発現を制御しているといえる。活性化されたAhR伝達経路と異物代謝との間の関係が確立されており、HDAC6の阻害は薬物やガン物質の代謝経路を変えるかもしれない。


鍬塚 大 2011/9/29

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