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Expression of CYP1A1, CYP1B1 and IL-1β in PBMCs and skin samples of PCB exposed individuals.

Leijs MM et al Sci Total Environ, 2018; 642: 1429-1438.

 ポリ塩化ビフェニル(PCB)は人工的な環境汚染物質で、内分泌系をかく乱する物質である。過去に大量に生産され、世界中でヒトでの血中濃度が測定されるようになった。


 2010年にドイツの変圧器リサイクル会社で、体内PCB濃度が高値となっている労働者が発見された。筆者らはPCBに曝露された人々(n=max308)の末梢血単核細胞(PBMCs)におけるCYP1A1とCYP1B1、IL-1βの発現量について調べた。参加者は1年目が269名で5年間のフォローアップ期間の間最低1年以上参加したのが308人であった。その中で100名(男性85名、女性15名)が5年間継続してフォローアップをされていた。
 その結果、PCBsの血中濃度は時間経過とともに減少していた。5年間継続してフォローアップされた参加者(100名)ではCYP1A1の発現が年々減少していた。特に最初の3年間で減少していた。また、最初の4年間では体内PCBs濃度とPBMCsでのCYP1A1発現とに相関関係を認めなかったが、5年目ではCYP1A1の発現と非ダイオキシン様PCB(ndl-PCB)、ダイオキシン様PCB(dl-PCB)の体内濃度に相関を認めた。しかしながら、体内PCBs濃度には2個の異常に高い外れ値がありこれらを除外すると相関関係はなかった。
 CYP1B1の発現は6年間の経過観察の間、体内PCB濃度に相関して減少していた。
 また、5年間の間にPBMCsでのIL-1βの発現は減少していた。さらに、25人の参加者の皮膚を生検し、PCRによりにおけるCYP1A1、CYP1B1、IL1B、AHRRの発現量を測定した。その結果、CYP1A1はdl-PCB118とは関連がなかった。喫煙は皮膚におけるCYP1A1の発現の交絡因子であったが、PCBやPCDD/Fの曝露量と相関性はなかった。AHRRCYP1B1の皮膚での発現とPCBやPCDD/Fの量とに相関性はなかった。また、IL-1Bの発現とPCDD/Fの量には相関性があった。さらにndl-PCBと同位体であるPCB138、153、180、dl-PCB114、118、156、157、167、189で相関性があった。喫煙、年齢、性別、血中脂質量とは明らかな相関性はなかった。


 以上の結果をまとめると、
 1)PBMCsではCYP1A1とCYP1B1、IL-1βの発現は体内PCBの経時的な低下とともに減少しており、2)皮膚でのIL-1βの発現量が体内PCB濃度と相関していた。
 PCBの体内濃度が高い個体でのIL-1βの上昇が、自己免疫疾患や腫瘍の発生の要因となっているかを今後検証していく必要がある。



神尾 芳幸 2018/10/16


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