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6-Formylindolo[3,2-b]carbazole (FICZ) is a Very Minor Photoproduct of Tryptophan at Biologically Relevant Doses of UVB and Simulated Sunlight

Youssef A, et al., Photochemistry and Photobiology, 2018 Jun, doi: 10.1111/php. 12950.

背景・目的
紫外線(UV)は生体内分子の構造変化を誘導し、生命体に対して有益/有害な現象を引き起こすことが知られている。紫外線吸収性のアミノ酸であるトリプトファンはUVB曝露により容易に複数の光産物を生じるが、中でも6-Formylindolo[3,2-b]carbazole(FICZ)が注目を集めている。
FICZは、生体異物代謝などの過程で重要な役割を担うアリル炭化水素受容体(AhR)に非常に高い親和性を示すため、紫外線曝露により誘導されるAhR調節性の反応に責任を負うと考えられている。一方で、実際の生体皮膚において紫外線照射によりFICZが形成されていることを示す直接的な根拠は得られていない。
過去の論文は、高濃度トリプトファン存在下で高線量のUVBを照射した培地・培養細胞などを用いていることから、本研究では低い線量のUVBや疑似太陽光(simulated sunlight: SSL)を照射して検討を行うことで、実際の生体に近い条件においてFICZがどの程度産生されうるか検証することを目的とした。


方法
トリプトファン溶液(10 mM in PBS)、あるいは培養液に低量のUVB(0.06, 0.11, 0.22, 0.56, 1.1, 2.2, 3.3 J/cm2)、SSL(0.5-12 MED = UV 1.8, 3.6, 10.8, 21.6, 43.2 J/cm2)を照射し、HPLC-MS/MSを使用してトリプトファン由来の光産物4種(N-Formylkynurenine(NFKyn)、Kynurenine、Tryptamine、FICZ)を検出した。また、初代ヒト表皮細胞(NHK)、メラノーマ細胞株(MEL501、AhR陽性/欠損が各2株)にSSLを照射し、光産物の検出を試みた。


結果・考察
トリプトファン溶液にUVB/SSLを照射した場合の主な光産物はNFKynであった。FICZは検出した4種の光産物のうちで最も少なく、わずか0.02%(NFKynの1/104程度)を占めるのみであった。同様の実験を培養液中でも行ったところ、培養液にトリプトファンを添加した場合でさえもFICZの収量はごく少なく、検出が困難であった。
また、SSLを照射した細胞における光産物の検出を試みた。未照射のNHKでは0.8 pmol/106 cellsのNFKynが検出され、2MED照射により3倍に増加したが、FICZを含むその他3種の光産物は検出感度以下であった。CRISPR/Cas9でAhRをノックアウトし、FICZの分解が抑制されているはずのMEL501においても、SSL照射後の細胞からFICZは検出されなかった。HPLC-MS/MSの感度より算出したFICZの下限値は3 fmol/106 cellsであり、細胞内トリプトファンの量から考えると光産物の0.003%に過ぎなかった。


結論
上記解析結果より、トリプトファンの光産物としてのFICZは極めて微量にしか産生されないことが明らかになった。よってFICZが、紫外線曝露により誘導されるAhR調節性の反応に責任を負う唯一の内因性光産物であるとみなすことはできず、FICZ以外の光産物が関与する可能性も考慮に入れて検討するべきであることが示された。


キーワード:
Photoproduct, FICZ, ultra violet (UV), simulated sun light (SSL), aryl hydrocarbon receptor (AhR)



田中 由香 2018/7/13


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