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Beta-defensin 1, aryl hydrocarbon receptor and plasma kynurenine in major depressive disorder: metabolomics-informed genomics.

Liu D, et al. Transl Psychiatry 2018 Jan 10; 8(1):10.

大うつ病は不均質な疾患である。Genome-wide association study(GWAS)単独による大うつ病の細分化と抗うつ薬効果のためのバイオマーカーを同定する試みはこれまでにうまくいっていない。この研究では、メタボロミクス情報を付加した遺伝研究戦略を用いて大うつ病の病態生理における遺伝的多様性の寄与を明らかにした。トリプトファン,チロシン及びプリン代謝経路の化合物を含む31個の代謝産物について290人の大うつ病患者の血清サンプルを用いて検討した。まず, 代謝産物の血中濃度と抑うつ症状との関連を明らかにし,次に,選択した代謝産物に関わるGWASを行い, 同定した遺伝子の機能を検証した。


その結果, キヌレニン(kynurenine:KYN)は抗うつ薬を投与される前のベースラインの代謝産物の中で最も抑うつ症状と関連していたが,症状の重症度とは負の相関が認められた。KYN血中濃度に対するGWASではβ-defensin 1(DEFB1)とaryl hydrocarbon receptor(AHR)のmRNA転写を調節するcis因子の量的形質遺伝子座(quantitative trait loci:QTLs)のSNPsが同定された。さらに, すでに報告されている803人を対象にした大うつ病患者群コホート研究結果を基に検証したところ、 このDEFB1の遺伝子座は大うつ病症状の重症度と関連していた。機能的にはDEFB1は単球におけるLPS刺激下のKYN生合成に関わる酵素群発現増加や,培養液中のKYN濃度上昇を抑止する.それに加えて,AHRはKYN系の酵素発現調節に関わっており,肝細胞や星状膠細胞由来の培養細胞におけるKYN生合成を変化させることも明らかとなった。


以上の結果より,大うつ病症状の重症度と関わる血液中のKYN濃度変化に関連するDEFB1とAHRのcis因子のQTLsのSNPsが同定された。


コメント:
トリプトファン代謝産物と言えば古典的にはセロトニン,メラトニン系が知られている。近年,トリプトファンからの代謝経路でセロトニン系とは別経路のキヌレニン系がうつ病や双極性感情障害等の精神疾患だけでなく肥満や癌との関連で注目されている。キヌレニンはAHRのアゴニストであり油症患者さんおけるキヌレニン系の役割も検討される必要があると考える。



近藤 英明 2018/6/20


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