Journal Club

Estrogenic status modulates aryl hydrocarbon receptor-mediated hepatic gene expression and carcinogenicity.

Singhal et al.
Carcinogenes 29; 227-236: 2008.

研究目的

排気ガスやたばこの煙に含まれているPAH (polycyclic aromatic hydrocarbons)の一部はダイオキシン受容体であるaryl hydrocarbon receptor (AhR)シグナルを介して、さまざまな遺伝子の発現を増減し、発がん性、代謝経路や免疫反応の変調をきたす。エストロゲンは閉経前の女性に高濃度に分泌されている女性ホルモンの一種で、肺癌などある種の癌のリスクを高めると考えられている。今までにエストロゲンがダイオキシンやPAHの作用を増強するという報告や、エストロゲン受容体成分がAhRシグナル分子のAhRやARNTと共同してAhRシグナルに影響を及ぼすという報告がある。この研究では、生体内で分泌されているエストロゲンの主成分(estradiol: E2)が、PHAの一種の7,12-dimethylbezanthracence (DMBA)による肝臓での様々な遺伝子発現の誘導や抑制に影響を及ぼすかどうかと、そのメカニズムについて検討した。

方法

50生日の成熟ラットの卵巣を摘出したのち、E2を14日間持続皮下投与で補充した群としない群のそれぞれに、DMBA(50 mg/kg)の入ったえさを食べさせた。その24時間後に肝臓で発現している様々な遺伝子のmRNAの発現の相違を、microarray assayとreal-time PCRで調べた。また、AhRやE2のレセプター成分の一つであるERαが作用遺伝子のプロモーター領域に結合して転写を調整しているかどうかをクロマチン免疫沈降法で調べた。

結果

DMBA投与のみで216遺伝子の発現が低下し、106遺伝子の発現が増強した。そのうち、チトクロームC(CYP1A1)など39遺伝子の発現が、E2を補充すると変動した。また、DMBA投与で発現に変化がなかった遺伝子のうちダイオキシン受容体であるAhRなど71遺伝子の発現が、E2を補充すると変動した。なお、CYP1A1遺伝子は、DMBA投与でその発現が増強するが、E2を補充するとさらに増強した。AhR遺伝子は、E2を補充してDMBAを投与した時のみ、その発現が増強した。次に、E2が遺伝子の転写に影響を及ぼすメカニズムをクロマチン免疫沈降法にて調べた。E2+DMBA投与群では、CYP1A1遺伝子プロモーター領域にAhRとERαが結合しており、AhR遺伝子プロモーター領域にはERαが結合し、AhR mRNAの発現の増強が確認された。

考察

エストロゲンはそのレセプター成分ERαを介して、
1)DMBAによるAhRシグナルと共動して様々な遺伝子の発現を修飾する他、
2)AhR遺伝子自体の転写も増強することで、AhRシグナルを修飾している可能性が示唆された。

九州大学油症センター 三苫千景

Key words:

  • ARNT: arylhydrocarbon nuclear translocator,
  • DMBA: 7,12-dimethylbezanthracence
  • CYP1A1:薬物代謝に関連するチトクロームP450の一種。
閉じる